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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)161号 判決

原告(選定当事者) 宮川淑 ほか一名

被告 千葉県選挙管理委員会

代理人 中山弘幸 石川和雄 ほか二名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実〈省略〉

理由

第一被告の本案前の主張について

一  原告らを含む選定者らが昭和六一年七月六日に行われた本件選挙の千葉四区における選挙人であること、本件選挙が本件定数配分規定に基づいて行われたものであることは当事者間に争いがない。

原告らは、本件選挙当時議員一人当たり選挙人数の較差の最大は一対二・九九に至つており、多くの選挙区間においていわゆる逆転現象を生じていたので、本件定数配分規定は憲法一四条、一五条、四四条等に違反して無効であり、したがつてこれに基づく本件選挙も無効であると主張し、千葉四区における選挙無効を公選法二〇四条によつて求めるものであるところ、本件訴えが、同条所定の選挙の日から三〇日の期間内に提起されたものであることは、本件記録上明らかである。

二  しかるところ、被告は本件訴えは不適法であると主張するので、右主張について判断する。

選挙権は代表民主制を支える国民固有の権利であり、政治的平等は憲法の強く要請するものであるから、選挙における法律違反の瑕疵については公選法二〇四条の選挙の効力に関する訴訟によつて主張することができるのに、より一層重要な憲法違反の瑕疵を主張することができる方法がないとすることは不合理である。したがつて、議員定数配分規定そのものの違憲を理由とする選挙の効力に関する訴訟(以下「定数訴訟」という。)は、右公選法二〇四条の規定に基づいてこれを提起することができるものと解すべきである。

定数訴訟の適法性を肯認することは、最高裁判所の判例とするところであり(五一年判決、昭和五八年一一月七日大法廷判決・民集三七巻九号一二四三頁(以下「五八年判決」という。)、六〇年判決等)、これと別異に解すべき理由はない。

よつて、被告の本案前の主張は採用することができない。

第二本案について

一1  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2  本件定数配分規定の下において、昭和六〇年国勢調査(昭和六〇年一〇月一日実施)の人口速報値による議員一人当たりの人口の最大較差(長野三区と神奈川四区)が一対二・九九であることは当事者間に争いがない。

3  <証拠略>によれば、本件定数配分規定の下において、昭和六〇年国勢調査確定人口による衆議院の選挙区別の人口、定数、議員一人当たりの人口は、別表(衆議院の選挙区別人口・定数・議員一人当たり人口)記載のとおりであり、これによれば最大較差(長野三区と神奈川四区)が一対二・九九三であることが認められる。

また、<証拠略>によれば、議員定数が三人で最も人口の多い選挙区である広島一区に対して逆転区は五八区あり、議員定数が四人で最も人口の多い選挙区である神奈川四区に対して逆転区は三七区あることが明らかである。

二  先ず、選挙権の平等と選挙制度に関する国会の裁量権について判断する。

1  憲法一四条一項の規定は、国会を構成する衆議院及び参議院の議員を選挙する国民固有の権利につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず(四四条但書)、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべきであることは、最高裁判所の判例の趣旨とするところであり(五一年判決、五八年判決、六〇年判決)、これと別異に解すべき理由はない。

したがつて、衆議院及び参議院の議員の選挙区割及び議員定数の配分を決定するについては、選挙人数と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるというべきである。

2  しかしながら、議会制民主主義の下における選挙制度は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることを目的としつつ、政治における安定の要請をも考慮しながら、それぞれの国の実情に即し決定されるべきものであり、普遍的に妥当する一定の形態が存在するというものではない。日本国憲法は、国会の両議院の議員を選挙する制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのであるから(四三条、四七条)、投票価値の平等は、憲法上、右選挙制度の決定のための唯一、絶対の基準となるものではなく、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解すべきであり、国会が定めた具体的な選挙制度の仕組みの下において投票価値の不平等が存する場合において、それが憲法上の投票価値の平等の要求に反しないかどうかを判定するには、憲法上の投票価値の平等の要求と選挙制度の目的とに照らし、右不平等が国会の裁量権の行使として合理性を是認しうる範囲内にとどまるものであるか否かについて検討すべきである。

ところで、わが国において衆議院議員の選挙の制度について、公選法がその制定以来いわゆる中選挙区単記投票制を採用してきたのは、候補者と地域住民との密接な関係を考慮し、また、原則として選挙人の多数の意思の反映を確保しながら、少数者の意思を代表する議員の選出をも可能ならしめようとする趣旨に出たものである。このような制度の下において、選挙区割と議員定数の配分を決定するについては、前記のとおり、選挙人数と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるが、それ以外にも考慮されるべき要因としては、従来の選挙の実績や、選挙区としてのまとまり具合、都道府県、市町村等の行政区画、地形、面積の大小、人口密度、住民構成、交通事情等の地理的状況等諸般の事情が存在するのみならず、人口の急激な都市集中化、特定の地域における人口過疎化の現象等の社会情勢の変化を選挙区割や議員定数の配分にどのように反映させるかということも考慮されるべき要因の一つである。このように、選挙区割と議員定数の配分の具体的決定には、極めて多種多様で、複雑微妙な政策的及び技術的考慮要因があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるべきかについては、厳密に一定された客観的基準が存在するわけのものではないから、議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認しうるか否かによつて決するほかはない。

このような見地に立つて考慮しても、具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存在し、あるいは公選法の制定又は改正後の人口の異動により右のような不平等が生じ、それが国会において通常考慮しうる諸般の要因を斟酌してもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるをえないものというべきである。

以上は、最高裁判所の判例の趣旨とするところであり(五一年判決、五八年判決、六〇年判決)、これと別異に解すべき理由はない。

3  ところで、昭和六一年の公選法改正において、八選挙区の定員を各一名増員し、七選挙区の定員を各一名減員するとともに、三県において隣接選挙区の境界を変更することにより、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正が図られたことは当事者間に争いのないところ、右事実からも、選挙区割と選挙区への議員定数の配分との関係は、先ず選挙区割を行い次いで選挙区への議員定数を配分するというものではなく、相互に有機的かつ複雑微妙に関連し、一方の変動は他方に波及するものであることが明らかであるから、議員総定数の定め及び選挙区割については国会の裁量権の範囲は広いとしても、選挙区への議員定数の配分については国会の裁量権の範囲は厳格な人口比例原則に違反しない限度に限定されるべきであるとする主張ないし見解は、た易くこれを採用することができない。

また、議員定数の配分については、国会の裁量権は狭く、議員一人当たりの人口の較差についても約一対二以内にとどめられるべきであつて、非人口的要因は、それがいかに考慮に値いするものであつても、原則として右の一対二以上の較差を正当化することはできないこと、したがつてまた、厳格な人口比例の原則からの乖離がみられる場合には、合憲性の推定は妥当せず、公権力の側においてこれを正当化する特段の事由につき挙証責任を負うべきであり、司法府もまたこの点につき厳格な審査を行うべきものであるとする主張ないし見解がみられるが、厳格な人口比例の原則に一歩でも二歩でも近づけて選挙区割及び議員定数の配分を決定することの望ましいことはともかく、その決定に当たつては、右のほか更に加えて諸般の非人口的要因をも勘案考慮されるべきものであることはさきに説示したとおりであるから、前記の主張ないし見解は結局いずれもこれを採用し難いものというほかはない。

なお、昭和六一年の公選法改正は、衆議院に関しては、六〇年判決によつて違憲と宣言された旧定数配分規定に基づいて選出された議員によつて行われたものではあるが、六〇年判決は事情判決の法理により前回選挙を無効とはしなかつたのであるから、旧定数配分規定により選出された議員によつて構成された衆議院であつても、その立法上の裁量権が他の場合よりも特に狭く限定されるべき理由はない。

三  次に、本件定数配分規定の合憲性について判断する。

1  叙上の見地に立つて衆議院議員の選挙制度について検討するに、公選法は、いわゆる中選挙区単記投票制を採用し、その制定当時において、衆議院議員の定数を四六六人とし、全国を一一七の選挙区に分ち、これに三人ないし五人の議員を配分したこと、議員定数の配分を定めた制定当時の同法別表第一は、衆議院議員選挙法の一部を改正する法律(昭和二二年法律第四三号)による改正後の衆議院議員選挙法(大正一四年法律第四七号)の別表の定めをそのまま維持したものであること、右別表における選挙区割及び議員数は、昭和二一年四月実施の臨時統計調査に基づく人口を議員定数で除して得られる数約一五万人につき一人の議員を配分することとし、その他に都道府県、市町村等の行政区画、地理、地形等の諸般の事情が考慮されて定められたこと、右人口に基づく右制定当時の選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は最大一対一・五一であつたことがその制定過程から明らかである。

2  その後、議員定数配分規定は、昭和二八年の奄美群島の本邦復帰及び昭和四五年の沖縄の本邦復帰に伴つて前者の地域に一人、後者の地域に五人の議員を配分する改正がなされたほか、昭和三九年(同年法律第一三二号、以下「昭和三九年改正法」という。)及び同五〇年(同年法律第六三号、以下「昭和五〇年改正法」という。)に選挙区間における議員一人当たりの人口につき生じた較差の是正を目的として一部の選挙区につき議員数の増加及びこれに伴う選挙区の分割が行われ、そのうち昭和三九年改正法による議員定数配分規定の改正においては、選挙区別議員一人当たりの人口数の較差をほぼ二倍以下にとどめることを目的として議員総数を一九名増員したが、昭和四七年一二月一〇日施行の衆議院議員選挙当時における選挙区別議員一人当たりの人口数の較差は約一対五に達していたのであり、また、昭和五〇年改正法による議員定数配分規定の改正においては、直近の昭和四五年一〇月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区別議員一人当たりの人口の較差が最大一対四・八三に及んでいたのを是正するため、議員総数を二〇名増員した結果、前記国勢調査による人口を基準とする右較差は最大一対二・九二に縮小することになつたが、昭和五五年六月二二日施行の衆議院議員選挙当時には選挙区別議員一人当たりの選挙人数の較差は最大一対三・九四に達しており、更に、昭和五八年一二月一八日施行の衆議院議員選挙当時には、右較差は最大一対四・四〇に拡大するに至つていた。以上は、五一年判決、五八年判決及び六〇年判決の判示するところである。

右のような公選法の改正の経緯を踏まえ、五八年判決及び六〇年判決は、昭和五〇年法改正による改正の結果、従前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は一応解消されたものと評価することができるものというべきであるが、その後、昭和五五年六月二二日の衆議院議員選挙当時における前記一対三・九四の較差は選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものと判断したのであり、五八年判決は、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかつたものと断定することは困難であるとの理由で昭和五五年六月当時の議員定数配分規定を憲法に違反するものと断定することはできないとしたのに対し、六〇年判決は昭和五八年一二月一八日当時の旧定数配分規定を憲法に違反するものと断定したのである。

3  そこで、昭和六一年の公選法の改正の経緯についてみるに、<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(一) 五八年判決において、昭和五五年六月二二日の衆議院議員選挙当時の議員一人当たりの最大較差一対三・九四は憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものと判断されたことに対応して、新自由クラブが、昭和五八年一一月に、定数配分を全面的に見直し、最大較差を一・五倍以内とする是正案を公表したほか、昭和五九年三月には、日本社会党(以下「社会党」という。)、公明党、民社党、日本共産党(以下「共産党」という。)が、それぞれ定数是正案を公表した。是正後の最大較差は、社会党案では二・五倍以内、民社党案では二倍程度、公明党案及び共産党案では二倍以内とされていた。自由民主党(以下「自民党」という。)においては、同年二月に選挙制度調査会の下にプロジエクトチームを設け、同年六月、いわゆる六増六減案(六選挙区で定数を各一人増員し、六選挙区で定数を各一人減員するものとする。)を適当とする旨の報告をとりまとめ、選挙制度調査会に報告したが、党としての最終結論を得るには至らなかつた。

(二) 昭和五九年一二月に招集された第一〇二回国会においては、自民党及び野党四党(社会党、公明党、民社党、社会民主連合)から、それぞれ定数是正法案が提出された。自民党の六増六減案は、〈1〉議員総定数は五一一名を維持すること、〈2〉是正後の最大較差を三倍以内とすること、〈3〉選挙区の境界は変更しないこと、を原則として策定されたものであり、野党四党統一の定数是正法案は、六選挙区で各一人増員し、六選挙区で各一人減員する点において自民党案と骨格においては同様であるが、相違点は、自民党案によれば、減員の結果定数が二人となる四選挙区についてそのまま二人区として認めるのに対して、野党四党案では、二人区の採用は小選挙区制の導入に連なるので二人区を設けるべきではないとの見解に基づいて、減員の結果二人区となる四選挙区については、隣接の選挙区と合区あるいは境界変更を行い、二人区は設けず、中選挙区制としてわが国に定着してきた一選挙区の定数三人ないし五人の原則を維持しようとすることにあつた。

右両法案については、審議が開始されたが、いずれも次国会に継続審議されることとなり、第一〇二回国会は昭和六〇年六月二五日閉会した。

(三) その直後の昭和六〇年七月一七日、六〇年判決が言い渡され、旧定数配分規定は違憲であると断定されたため、定数是正問題は国会にとつて緊急課題となつた。第一〇三回臨時国会は、同年一〇月一四日に招集されたが、与野党の意見は依然として平行線をたどり、合意成立に至らなかつたため、同年一二月一九日、衆議院議長坂田道太は、「昭和六〇年国勢調査の速報値に基づき、来る通常国会において、次の原則に基づき、速やかに成立を期するものとする。

〈1〉 現行の議員総数五一一名は変更しないものとすること。

〈2〉 選挙区別議員一人当たり人口の較差は一対三以内とすること。

〈3〉 小選挙区制はとらないものとすること。

〈4〉 昭和六〇年国勢調査の確定値が公表された段階において、速報値に基づく定数是正措置の見直しをし、更に抜本的改正を図ることとする。」

との見解を示し、翌二〇日、衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会及び衆議院本会議は、「本問題の重要性と緊急性にかんがみ、次期国会において速やかに選挙区別定数是正の実現を期するものとする」旨の決議をして、同月二一日、第一〇三回国会は閉会した。

(四) 第一〇四回通常国会は、第一〇三回臨時国会閉会の三日後の昭和六〇年一二月二四日に招集されたが、同日、昭和六〇年国勢調査(同年一〇月一日実施)の速報値が公表された。右速報値によれば、選挙区別議員一人当たりの最大較差は、昭和五五年国勢調査の際の一対四・五四倍から一対五・一二倍へと拡大し、六増六減方式と同様増減同数で較差を三倍以内とするためには、九選挙区で一〇人増(千葉四区については二人増)、一〇選挙区で一〇人減の一〇増一〇減を行うことが必要となつた。昭和六一年一月二七日、共産党から定数是正法案が国会に提出され、その内容の骨子は、〈1〉一選挙区の定数三人ないし五人の中選挙区制を維持する、〈2〉選挙区間の最大較差を二倍未満とする、〈3〉総定数は五一一名のままとする、との三原則に基づき、昭和六〇年国勢調査の速報値を基準として定数を配分し、具体的には、二三選挙区で三二人増員し、三一区で三二人減員するとともに、増員の結果定数六人以上となる選挙区は分区し、減員の結果定数三人未満となる選挙区は合区又は境界変更を行うとするものである。

その後、自民党、社会党、公明党、民社党及び社会民主連合の五党から調停を要請された坂田衆議院議長は、昭和六一年五月八日、「今回の定数是正に際し、二人区の解消に努める旨の与野党間の合意の趣旨を尊重し、それを実現するため各党の主張を勘案した結果、減員によつて二人区となる選挙区のうち和歌山二区、愛媛三区及び大分二区については、隣接区との境界変更により二人区を解消することとする。この場合、減員は七選挙区となり、総定数を変えないときは、増員は七選挙区となるべきところであるが、今回の定数是正の中心課題である較差三対一以内に縮小しなければならない要請にこたえるため今回は特に八選挙区において増員を行うことも已むを得ないものと考える。しかしながら、抜本改正の際には、二人区の解消とともに総定数の見直しを必ず行うものとする。」などを内容とする議長調停を提示し、これをもとに人口比例上の平等が最も重要かつ基本的な基準であるとの考え方に立脚しつつ、中選挙区単記投票制の維持、選挙区割その他前記第二、二、2掲記の如き諸般の非人口的要因をも勘案考慮して法案化の検討、作業が行われた結果、同年五月一六日、公職選挙法改正に関する調査特別委員会において右議長調停のとおりに委員会提出の法律案とすることが決せられ、同月二一日、衆議院本会議において、賛成多数により可決された(参議院本会議における可決は同月二二日)。その際、右衆議院本会議において、更に次の決議がなされた。

「選挙権の平等の確保は議会制民主政治の基本であり、選挙区別議員定数の適正な配分については、憲法の精神に則り常に配慮されなければならない。

今回の衆議院議員の定数是正は、違憲とされた現行規定を早急に改正するための暫定措置であり、昭和六〇年国勢調査の確定人口の公表をまつて、速やかにその抜本改正の検討を行うものとする。

抜本改正に際しては、二人区・六人区の解消並びに議員総定数及び選挙区画の見直しを行い、併せて、過疎・過密等地域の実情に配慮した定数の配分を期するものとする。

右決議する。」

4  ところで、憲法一四条一項の規定は投票価値の平等をも要求するものと解すべきであり、国会議員の選挙区割と議員定数の配分を決定するについては、選挙人数(人口にほぼ比例するものと推認される。)と配分議員数との比率が最も重要かつ基本的な基準であるというべきであるが、人口以外の諸般の要因をも考慮することが排除されるべきものではなく、これらの要因をどのように考慮して具体的決定に反映させるかについては客観的基準が存在するものでもないから、議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるか否かによつて決するほかはないというべきところ、五八年判決及び六〇年判決の趣旨、内容を踏まえた前記昭和六一年の公選法改正の経緯、殊に昭和六〇年国勢調査の確定人口の公表をまつて速やかに抜本改正の検討をする旨の前記衆議院本会議決議の趣旨をも総合して判断すると、その後の人口の異動により本件選挙当時においては、本件定数配分規定による定数配分は憲法の選挙権平等の要求に反する不合理なものであるというべき状態に極めて近接していたものとみられる余地があるものの、右定数配分の定めはいまだ国会に許容される裁量権の限界を超えるに至つていたものとまでは断定することができない。

また、いわゆる逆転現象については、これをもつて単に各選挙区間の議員定数の配分上の均衡の問題にすぎないものとみることはできず、これもまた選挙権平等の要求にかかわる問題として検討されるべきものであり、各選挙区間において顕著に右の現象がみられるにいたつた場合には、人口比例の原則にも照らし、これを正当化すべき特別の理由がない限り、国会において可及的速やかに是正措置を講ずることが望ましいものというべきである。しかしながら、逆転現象がいかなる程度に達すれば議員定数配分規定が全体として憲法の選挙権平等の要求に反する不合理なものとなるとみるべきかについては、必ずしも客観的に明白な判断基準がないこと、人口の異動に対応して逆転現象を是正するため議員定数配分規定をしばしば更正することは制度上必ずしも相当ではなく、実際上も困難であること、逆転現象は選挙区割及び議員定数の配分の決定ないしそれによつて生ずる較差と密接に関連する事柄であるが、本件においては前叙のとおり本件定数配分規定による較差がいまだ国会に許容される裁量権の限界を超えるにいたつているものとまでは、断定し難いこと、前記のとおり本件定数配分規定については速やかに抜本改正を検討することが衆議院本会議において決議されていることなど前記昭和六一年の公選法改正の経緯を総合して判断すると、前記第二、一、3のとおり逆転現象が相当数の選挙区についてみられたとしても、その早期是正が望まれることはともかく、これをもつて直ちに投票価値の不平等が、国会において通常考慮しうる諸般の要因を斟酌してもなお、一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達しているものとみることはできない(昭和五八年四月二七日最高裁判所大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁、昭和六一年三月二七日最高裁判所第二小法廷判決・裁判集民事一四七号四三一頁参照)。

5  以上の次第で、本件議員定数配分規定の是正問題は、本件選挙当時においては国会に許容される裁量権の限界を超えるに至つたものとまでは断定することはできず、したがつて、本件議員定数配分規定の下に執行された本件選挙をもつて違憲であり無効であるとすることはできない。

四  よつて、原告らの本件各請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村修三 山中紀行 篠田省二)

被告の主張 <略>

別表 <略>

当事者目録 <略>

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